制作途中 顔部分 模写 小磯良平『T嬢の像』1923
今回から、絵画制作デモンストレーション、自身の研究もかねて油彩作品を制作する【制作日記】シリーズを始めたいと思います。今回は小磯良平作品の模写をしていきたいと思います。
目次
支持体づくり
今回は、シナベニア板に布を張り、部分模写をしていきます。模写元の作品はキャンバスが支持体ですが、今回は私の実験、研究もかねて板絵にチャレンジします。
シナベニアはホームセンターの画材コーナーで買いました。板絵用布はネット通販で。板絵用の布というのは、本来、板に継ぎ目やシミがなければ不要なのですが、板に直接絵具を載せるよりも個人的には自分の描く感覚に合うと判断して貼りました。
板のヤニ止め、目止めとして、また布を張り付ける接着剤としてウサギ膠(にかわ)を塗っていきます。
塗る際には固形状の膠を、10倍の水で一晩膨潤させてから、60度くらいに温め溶かして板に刷毛で塗っていきます。70度以上にしたり沸騰させてしまうと固着力が落ちてしまいます。
次に地塗りをしていきます。地塗り(下地づくり)は、目止め、絵具の吸収を調整するために行います。膠が乾いてから端を切り取り、地塗り材(アブソルバン)を塗っていきます。アブソルバン(ホルベイン社)は容易に削れ、布目のない平滑な絵肌を作ることもできます。
本来、板絵の地塗りは膠と炭酸カルシウム粉末等を混ぜて塗りますが、この商品は炭酸カルシウムやチタン白の組成で、あらかじめペースト状で手間が省け、アクリル樹脂を接着成分に使うことで乾燥速度と強度を増しています。
↓二層目。
↓三層目を塗り、ヤスリをかけることで平滑な画面になりました。
下書き(デッサン)をしていく
今回、この作品を模写していきます。この、小磯良平氏の『T嬢の像』は、116.8㎝×91㎝、キャンバスに油彩で描いた作品です。
鉛筆にて下絵を描いていきます。使った鉛筆は2BとH。濃淡二種類使い分けられるようにしました。
描いていて大切だと思った点、とくに意識したのは
①目の方向、形
②髪の輪郭によって頭の大きさを把握すること
③絵の中で一番影が落ちる(暗い)部分を探すこと
④顔につく大きな影部分と背景の影部分をよく見る
この四つは立体感の把握と、絵具に移行する際とても重要だと思ったからです。
油絵具をつけていく
支持体に軽く鉛筆で下絵を描きました。次はいよいよ絵具の段階です。
今回は板にアブソルバンを塗り吸収性の下地を作りました。これにより古典絵画の風合いが手に入るとともに絵具が食いつくため頑丈な画面が作成できます。
↓最初に吸収性を調節するためマスチック樹脂とテレピン(揮発性油)で一層絵具をかけます。樹脂はコーティング効果があり、上の層の絵具の吸収量をコントロールできます。絵具は手持ちの半透明の色を選んでいます。一層目に全体に色を付けることで立体感を把握しやすくする狙いもあります。
↓シルバーホワイト(鉛白)を使って明るい部分を筆で描きおこしています。暗い部分は茶系絵具(ローアンバー)で描いています。吸収性下地のおかげですぐ油分も吸われ、描き味は水彩のようです。絵具が油でドロドロしていないので細かく描くことができました。
↓中間の色はイエローオーカー(黄土)を混ぜて描いています。明るい部分、中間、暗い部分を塗ることで立体感が出ました。
↓指触乾燥後、さらにマスチック樹脂を塗布してブラックやバーントアンバー(こげ茶)で暗い部分を描き、印象を合わせていきました。樹脂の塗布で艶も出て、とくにブラックをホワイトと混ぜると青みがかったグレーができるので、元の着物や背景の青い影を表現することができました。
↓柔らかい筆(動物の軟毛筆)でバーミリオンとネイプルスイエローを使い、肌の明るさと赤みを加え、さらに印象を似せていきます。肌の細かい陰影や色の変化が難しいですが勉強になります。
↓バーミリオン、ネイプルスイエロー、アリザリンクリムゾン、バーントシェンナ、白みの強いところはシルバーホワイトを混ぜながら描いていき、活き活きとした健康的な肌の張りになりました。9割がた出来たので、後は着物の模様など描いていきます。
続きはまた次回。
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