抽象画とはなにか?その1 カンディンスキーなど【20世紀】【ざっくり美術史8】

20世紀

上 ワシリー・カンディンスキー『縞』1934

 今回は、抽象画とは何であるのか、という比較的大きなテーマを、いくつかの記事に分けて書いていきます。

ちゅうしょう
【抽象】
《名・ス他》多くの物や事柄や具体的な概念から、それらの範囲の全部に共通な属性を抜き出し、これを一般的な概念としてとらえること。

 こちらの記事では19世紀末の美術について少しだけ書かせてもらいました。ここで出てきた象徴主義の画家には、精神世界や神秘性を深く掘り下げるような画家(クリムト、ルドン、モロー等)がおり、加えて表現主義のはじまりともいえるゴッホやムンクも、「内面」や「意識」を表出するような絵画を描いています。

 19世紀印象派の後、目に映る情景からやがて、文学や思想、哲学そして人間の内面に接近する芸術というのが、世紀末の西洋絵画に特徴される点です。ここには伝統への反発があり、新しい作風の希求というのも大きいと思います。また、20世紀に入ってすぐの時代は建築、工芸、デザインの発展があり、それも画家に大きな影響を与えました。抽象画はこの中で生み出されたわけですが、抽象画が持つ概念を抽出したり、色や形体を純粋に示す特質は、とても新しい表現であったわけです。

抽象画のはじまり

 世紀末~20世紀はヨーロッパ各地で、伝統から離れ、当時の時代の発展や生活に根差した新しい形式の芸術運動が興りました。ドイツのミュンヘンで年鑑の発行と企画をした「青騎士」グループのワシリー・カンディンスキー(1866-1944)(見出しの作品の画家)は、抽象画の祖といえる制作をしています。祖と言っても抽象画は個人や一つのグループから始まったものではなく、ヨーロッパ各地から同時多発的に出てきた表現です。具体的には、色彩的な抽象としてのマティス、形体的な抽象としてのピカソ、テクノロジーや科学の抽象としてのイタリア未来派が代表にあげられます。またフランス(パリ)の画家で多彩な表現を持つフランシス・ピカビア(1879-1953)は、当時の感覚での最先端であるポスター、自動車の部品のモチーフを作品に取り入れました。なにを抽象化して表現するかは画家により多岐にわたりますが、どれも時代をとらえた新しい潮流であったことは事実です。

アンリ・マティス作 腕を上げたオダリスク(1923)

 ロシア出身のカンディンスキーは、余分な描写を排し、目に見えない純粋な抽象形体によって「内的な必然性」をもった抽象画を制作しました。こういった制作には宗教性、宗教観が入り込んでいたり、音楽のリズムというものも取り入れられています。

カンディンスキー作 コンポジションⅧ (1923)

バウハウスの創設

 1919年にドイツの建築家、ヴァルター・グロピウスによって設立された『バウハウス』は、合理的でシンプルなデザインや建築を世界的に広めるきっかけになる美術工芸学校ですが、この学校での教育も抽象画の発展に一役買っています。

 デザイン分野では機械的な大量生産と相性の良い合理的な考え方(布とパイプのみ用いた椅子やコンクリートとガラスの直線的な建物の設計)が教育されていましたが、絵画、芸術分野に関しては教育者であり芸術家であるヨハネス・イッテンの色彩論が独自の道を進み、シンプルに抽象化した色彩や形が人に与える感覚、精神性を説きました。そしてカンディンスキーも、予備課程(基礎教育課程)で教えており、抽象的な点や線、面を用いて様々な表現ができることを示しました。

 バウハウスの理念によって、建築や家具デザインでは、機能性を重視した合理性、装飾をそぎ落とした洗練性をもつ作品が生まれましたが、芸術分野ではイッテンやカンディンスキーらの教えによって合理性、洗練性の他、形体や色彩を抽出して意味を強調したり純粋な感覚を呼び起こすような絵画作品等が生み出されました。

 続きはまた次回。
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