ポップアートは、戦後しばらくして、60年代に形作られた芸術です。アメリカにおいて、ネオダダとともに、絵画を主にした「抽象表現主義」に反発した形で現れ、また大量生産、消費生活に肯定的な意味を見出しました。「ポップ」とはポピュラー(Popular)(人気)という意味と「Pop」の飛び出すという語感が含まれていて、ポピュラーカルチャー=大衆文化を多分に流用し、その表現としました。
第二次世界大戦後、アメリカでは消費生活が拡大し、またマーシャル・プランによる西ヨーロッパ諸国への経済復興援助を行い、イギリスや西ドイツなどにアメリカの大衆文化が流入しました。[1]
消費生活の拡大とは、商品が大量に生産され、大衆が様々な物を手に入れることができるということであり、効率的な生産技術が価格や価値を手ごろなものにしたということ、またその生産技術には皮肉にも戦争におけるノウハウが活かされていることも無視できません。
リチャード・ハミルトン
そんな中、こういった時代、文化に関心を持ったイギリスのリチャード・ハミルトン(1922-2011)が制作したコラージュ作品『一体何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力あるものにしているのか』(1956)が最初のポップアート作品と言われていますが、ピンナップ写真などを用い、奇妙さとグラマラスな雰囲気を持っています。人々が戦後の暮らしの新しい刺激と物質的な豊かさを享受している事を作品から感じ取ることができます。
目次
雑誌の切り抜きが芸術に
商品や有名人のシルクスクリーン作品で有名なアンディ・ウォーホル(1928-1987)、
コミックや広告を拡大してキャンバスに描いたロイ・リキテンスタイン(1923-1997)は共にグラフィックデザイナーの経歴も持っていますが、両者の作品はおもに雑誌の切り抜き等がアイデア・ソースになっていて、同時代のネオ・ダダの画家ジャスパー・ジョーンズ(1930-)が平面に平面状のモチーフを描いた「星条旗」のような問題提起的画風と比べてもコンセプチュアルな気難しさがなく、派手で肯定的な雰囲気を纏っています。
ジャスパー・ジョーンズ
ウォーホルとリキテンスタインをポップアートの代表とするならばポップアートとは、「アプロプリエーション」(流用)であるということに尽きると思います。その流用が、仮に「芸術」からの引用であればダダ的ですが、彼らの引用元は「娯楽雑誌の切り抜き」なのです。つまりグリーンバーグのいう、本物の模倣(雑誌)の、模倣であるということで、キッチュであると言えるわけですが、ポップアートの芸術家はグリーンバーグ的抽象表現主義に対しては「個人的」で「内向的」との批判をくわえます。ポップカルチャー(大衆文化)は概して「外向的」で魅惑的なのです。ウォーホル、リキテンスタインの作品は大衆文化がハイ・アート[現代美術用語辞典 1.0参照]の領域、市場に持ち込まれることに寄与し、関心と注目を集めることに成功したのです。
しかしながらポップアートのアプロプリエーション(流用)は常に本物との比較と権利問題にさらされており、議論や批判が多く生まれてしまう点は見逃せません。人の目を惹きつけ人気を集めることにおいてポップアートはこれとない芸術なのですが、同時に過激な危うさや儚さを持ち合わせてもいるのです。
ポップカルチャーとジェフ・クーンズ、村上隆
ジャン・ミッチェル・バスキア
ジェフ・クーンズ
ポップアートは大衆文化が様々に広がることに並行して、近年になっても衰えることはなく、特にストリートアートの中で注目されたアーティストは80年代のバスキア、キース・へリング、21世紀のバンクシーが代表的です。ゴシップとしても目立つ存在は、80年代から美術家として評価を獲得したジェフ・クーンズ(1955-)で、現代のポップアートの高額取引の常連であり一つの作品が約100億円で落札された等、話題に事欠かない作家です。
村上隆
そのクーンズの方法を参考にした芸術家はなんといっても村上隆(1962-)であり、彼はクーンズの様にポップアートの作家として大規模なアメリカ式アート市場に参入するとともに、氏の思惑は日本独自のポップカルチャーをアメリカに持ち込む事を意図していました。作風は、アニメーター金田伊功氏の表現のオマージュ作品など、日本の漫画アニメカルチャーへの言及が多く見られます。世界的なジャパニーズ・アニメの人気を踏まえた上で、アメリカのハイ・アート市場においての村上氏の成功は疑いようがありませんが、しばしばその流用表現は国内では論争の的となりました。
日本独自の(アニメや漫画の)ポピュラーカルチャーは、例えばアメコミのような、実在の人物のカリカチュアやデフォルメとしてのキャラクターなのではなく、キャラクターそのものが人格を持つような独立性を有していたり、アメリカのポップカルチャーと明確に異なる視座を持っています。
また話を広げるならば、日本において、コミックマーケット等巨大なマーケットを持つことを考えれば、国内では大衆文化がハイカルチャー(学問としての美術や文学、クラシック音楽)に対して人気や経済面などあらゆる部分で凌駕していると言っていいのではないか、と思います。
今後、日本のハイカルチャーとポップカルチャーはどのように区別されうるのか、境界を考えたり、ハイカルチャーの意義を問うことが重要になってくるのではないでしょうか。
ポップアートは似た表面の印象を持っていたとしても、肯定的にも、疑念的にも、知的にも感覚的にも振舞えるアートであり、そして多くの議論を内包する芸術です。「ポップアートの特質」という点から、カルチャーという視点にまで広げましたが、そういった文化全体を考えるきっかけになる分野であるのです。
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[1]参考文献 カラー版「20世紀の美術」 美術出版社 2000年初版
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